ルノアールが愛したオリーブの樹
私の毎日は樹木たちが語りかけてくれる言葉に支えられています。導かれるように出会った樹木、何かあるといつも会いに行く樹木。出会った木々の記憶を少しずつ……。
今日はオリーブのお話をしましょう。
一昨年の冬、画家のルノアールが心の支えにした、樹齢五百年のオリーブに会いに行きました。
南仏ニースから電車で約15分のカーニュ・シュル・メールという小さな街。最後の約十年を過ごした家がそのまま美術館になっていて、樹木はその広い庭の中に立っています。
歳をとって絵筆が持てなくなったルノアールが住むことに決めた、終の棲家。丘の上に立つ一本のオリーブの樹をひと目で気に入って、ここに移り住んだと伝えられています。
この家で、彼はリウマチで痛む手に絵筆を紐でぐるぐる巻きにしばりつけて、絵を描き続けました。毎日、毎日、毎日・・・・・・。
門をくぐるとミモザが咲き乱れ、美術館までの小道はまるで黄色いトンネルのようで、どこか別世界へと誘われるかのようでした。
それぞれの部屋はテーマごとに絵がかけられています。日本人におなじみのふくよかな女性の裸婦像の部屋もありました。アトリエには描きかけの絵がそのまま残されていました。
ルノアールの呼吸を感じるなか二階に上がると、オリーブの絵だけが飾られた小さな部屋があります。
窓から庭を覗くと、ちょうど絵と同じ風景が広がっているのです。オリーブが立つ場所も、風が吹きぬける通り道も、空の広がりも・・・・・・。
ルノアールはこの部屋で繰り返しオリーブを書いたのでしょう。デッサンもあれば水彩画もあり、細密な鉛筆画、油絵もありました。
古来、オリーブは再生の樹。絵を描き続けたいルノアールの願いにこたえ、心を支え、勇気を与え続けてくれたのです。
オリーブは今もなお、南仏カーニュ・シュル・メールの丘の上に立っています。
★ルノアール美術館
行き方・・・ニースから電車で約15分、カーニュ・シュル・メール駅から徒歩30分。日本の多くのガイドブックには徒歩5~10分と書いてありますが嘘です。タクシーを見つけましょう。
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